としサバ
 雫は庇の上から、これから始まる出来事の進行具合を、しばらくは高みの見物と決め込むつもりでいた。

 準備が完璧に整った時が、瞬間の時。

 雫が描く落下までのシナリオが、いま動画となって、目の前に動き始めようとしている。


 保の警察への電話で、カチンコの音がカチンと鳴った。


 保は慌てながら携帯から110番に電話を掛けていた。


 「も、もし、もし」
 「こちら110番。どうしましたか」

 「飛び下り自殺です。すぐ、来て下さい」
 「場所はどこですか」

 「西宮市南甲子園町00番地の砂浜小学校です」
 「誰が飛び降りようとしているのですか」

 「小学校6年生の女子生徒です」
 「どこで飛び降りようとしていますか」

 「校舎の4階。6年A組の窓の下の屋根みたいなものの上です」
 「庇の上ですね。君の名前と学年を言ってもらえますか」

 「・・・それは、言えません」
 「なぜ、言えないのですか」

 「お願いですから、大至急来て下さい」
 「もし、も・・」


 保は電話を大急ぎで切った。





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