強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「気になるものがあれば声を掛けてくださいね」

(確かこの人が店主だ。)

白髪混じりの丸い眼鏡。優しい雰囲気の年輩の男性だ。

「すみません、関東の方から来ました。弐國堂文具の柳瀬と申します」
「弐國堂の?これはこれは!ご無沙汰しております」

全てのお店に入った時に名乗り出る訳ではないが、ここはうちの店長と顔見知りだからな。

そう思って柳瀬は名刺を差し出し笑顔で挨拶を交わした。

「いついらしたんです?」
「先程到着しまして。真っ先にこちらへ。それにしても“蒔絵”《まきえ》素晴らしいですね」
「私の趣味みたいなもんですわ。並べるのが」

蒔絵――――。
器や屏風等にも取り入れられている、漆芸のひとつ。
万年筆にもそれがあって、漆を塗った上に金粉等を乗せて絵を描く。
あの細いペンに細かく描かれた蒔絵は一本でも見入ってしまうが、これだけ並べられたら圧巻である。
蒔絵専用のショーケースには15以上並べられているのだから。

「やはり日本を感じますね…絵柄もそういうものが多い。梅や桜、富士…」
「見るだけでなく、書いてあげなければペンは泣いてるんでしょうが」
「まあ…そうなんですかね」


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