強引な次期社長の熱烈プロポーズ
どんな日であろうと、お客様には関係ない。


「すみません」
「はい、いらっしゃいませ」


恰幅の良い、綺麗な装いの年配の男性が声を掛けてきた。


「こちらには、“龍”の蒔絵はないのですか」
「蒔絵・・・」


身につけているものは全て高級品っぽいその男性の口からは、普段あまり耳にしない『蒔絵』との単語が出て、百合香は内心パニックになる。


「え、と…当店にはこちらに展示しているものしか…」


そういって4、5本ある蒔絵を指した。
するとその男性は目を細めて一本一本確認した。


「・・・他のお店にもなくてここならと教えられてきたんですけどね」
「そうだったんですね…」


百合香は残念そうに呟くその男性に応えてあげたくて、まだ勉強不足の蒔絵シリーズだったが積極的に力になるよう働きかけた。

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