契約の婚約者
「俺は、一条沙希、お前が欲しいんだ。俺の世話や家のことをしてくれる嫁が欲しいわけでも、子供を産んでくれる母親が欲しいわけでもない。お前が欲しい」


あまりにもストレートな片桐の告白に沙希は言葉を失う。


世間一般の女子とはかなりずれている恋愛観の持ち主の沙希は、片桐の告白が嬉しくて言葉を失っているわけではない。片桐の言っている意味が理解できず、どう返していいのか分からないからだ。


奈央が黒沢にプロポーズされる前に片桐からこの台詞を聞いていたら、片桐を選んだだろうな、とこんな状況下でも冷静に考えられるあたり、やはりどこかずれている。


あぁ、そうだ、片桐は奈央のことが好きだったはずだ。そのかわいい感情は一体どこへいったんだ?


「奈央が好きだったんじゃなかったの?いつから私に異種変え?」


「別に本気だった訳じゃない。お前が慰めてくれたしな」


片桐は相変わらず余裕の笑みを浮かべ、沙希を逃がさない。


「だからって何で結婚まで飛躍するのよ…」


「結婚という形でお前を縛るのはどうかと思うが、お前は戸籍上だけでもつなぎとめておかないと、どこに行くかわからないからな?」


自分のことをよく分かっていない沙希に比べ、片桐はホントに沙希のことをよくわかっている。


沙希の反応も考えていることも全て手に取るように分かる、そう言っているようだ。


「俺との話を断っても、あの親はお前に他の結婚相手を見つけてくるだろう?そして、お前は大嫌いな古い慣習の権化に一生縛られることになる。それなら、俺と結婚した方が得策だと思わないか?」


沙希のことだけではなく、一条の家のことまでよく分かっている。



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