契約の婚約者
そして、今夜も片桐が台所に立ち、沙希の為にディナーの準備をしている。今日のメニューは愛しの婚約者ご希望のアラビアータとリゾットらしい。


「クス、カタギリさんって本当に何でもできるんだね?」


「どうした?持ち上げても何も出ないぞ」


海老の背わたを取りながら片桐は怪訝そうに顔を上げる。ベーコンのリゾットでいいか、と聞けば、海老がいいと言い張られ、海老の下処理を一人でしているのだ。


沙希はというと、手伝いもせず、アイランド型のキッチンカウンターの対面に座り、ビール片手に上機嫌だ。マンションを購入する時、料理もしないというのに、この幅広のワインレッドのキッチンカウンターにこだわり特注させた。


「私も大抵何でもできるけど、料理だけはダメ」


「ダメなんじゃなくて、お前のはしないだけだろう?」


「クスクス……よくわかってんじゃん?」


「お前が食べたいって言ったんだ、小麦粉をふるくらい、手伝え」


「ヤダね。手が海老くさくなる……」


沙希は全く悪びれる様子もなく、ビールをくいっと飲み干した。


片桐の目が「お前が海老がいいと言ったんだろ?」と言っている。



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