契約の婚約者

「カタギリさん、何思い出し笑いしてんの?キモイよ」


片桐の腕の中で、沙希は相変わらず悪態をつく。そんな彼女の毒舌にももう慣れた片桐は、ぎゅっと沙希を抱きしめ、髪にキスを落とす。


「ちょっと、お見合いのときのことを思い出していた」


「今さら?」


「あぁ、まさかお前と結婚するとはあの時は思いもしなかったな」


「それはこっちの台詞。婚約者のフリだけのはずだったのに、何でこんな男と……」


沙希は気だるそうに片桐を見上げる。口調はキツイが、片桐の胸に身体を預け、脚を絡めてくる。


多分無意識なんだろうが、そんな彼女の仕草すらも可愛いと思えてしまう自分に、自嘲する。


最初の頃は、こんな風に自分の腕の中で甘える沙希の姿なんて想像もできなかった。



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