契約の婚約者
「婚約を受けるフリをしろ、と言ってきたかと思えば、そのままホテルの部屋で押し倒されたよな?」


「そだっけ?覚えてないや」


その時のことを余り思い出したくないのか、沙希は片桐に背を向けようとする。が、逆に身体を反転させられ腕を取られた。


「ほう、何なら再現しようか?」


「いいっ!もうムリ!」


「押し倒してきた割に、俺の下でこんな風に……」


片桐の指は鎖骨から胸元に流れる。


「んん、やっ……」


両腕を交差させ頭上で押さえつける片桐をキッと睨むが、彼女は気付いていない、そんな顔をされれば冗談も本気にさせてしまうことを。


「沙希、誘うな」


「バカエロオヤジ!誘ってないっ!」


沙希はジタバタ暴れるが、脚を割って入ってくる片桐の身体に本気で抵抗しているように思えない。


唇を塞げば、身体の体温が一気に上がり、甘い吐息が漏れ出すから、総動員した自制心で抑えようと思っていた欲望も抑えられなくなる。



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