契約の婚約者
奈央の耳にも片桐と沙希の噂が入ったらしく、食堂のカフェで酷く真面目な顔をして聞かれた。



『本当にドMの振りして慰めたの?』



呆れて開いた口が塞がらない。


元はといえば、こつのせいだ、とまた奈央の頬をつねってやった。


涙目で睨むが、そんな顔をしても逆効果だということは奈央は知らない。


ランチを済ませ、席を立とうとしたとき、奈央が沙希の袖を引っぱり、小さい声で聞く。


「今日、飲もう?」


「飲めないヤツが言うな……修一と喧嘩でもした?」


「ううん、そうじゃなくて……できれば外じゃない方がいい」


「どうしたの?もうすぐ発つから寂しいの?」


「----うん。沙希のマンション行っていい?」


これまた素直な奈央にグラッとくる。


今日は潰してやろう、と沙希はニヤリ笑い「マンションで待っている」と恋人に告げるように耳元で囁き、席を後にした。



< 64 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop