アジアン・プリンス
「殿下。いかがいたしましょう」


皇太子付きの補佐官であるアキラ・ジェームズ・サトウが皇太子の数歩後ろを歩きながら尋ねた。


「ああ、参ったな。どうやら、ミスター・メイソンの言葉を鵜呑みにしたのはまずかったかもしれない。肝心の花嫁が部屋に籠もってしまったんじゃね」


中庭の、比較的灯りの届かない辺りを、レイ皇太子は散策していた。

黒っぽい髪に黒のスーツ……光がなければ闇夜の烏だ。
 

メイソンは必死で隠したが、それに騙されるほどの男なら、とうの昔にアズウォルドは共和国になっていただろう。

事を荒立てるために彼が来た訳ではなかった。

ごくごく穏便に、かつ早急に、婚姻による相互扶助の関係を継続するための渡米だ。


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