アジアン・プリンス
アンナは前に垂れる黒髪をすくい上げた。

綺麗な額がくっきりと浮かび上がる。日本では『フジビタイ』と言うそうだ。アンナは日系の父の血か、祖母の血を濃く受け継いでいるのだろう。

だがその中にあって、大きな瞳だけは青い光を放っていた。ライトのせいかもしれない。


「それじゃあなたは、レイがこの国の礎になればいいと思ってる? 国のため、称号を守るために生きることが彼の幸せ? 王族が個人の幸福を追求したらいけないなんて、誰が決めたの? 個人の幸福のみを追求することは、王族でなくてもしてはいけないことよ。どんな人間もひとりでは、自分を支えることもできない。ひとりでは持てない荷物もふたりなら……もっと楽に持てると思うわ」


ティナには何も言い返せなかった。 


「ごめんなさいね。突然こんなこと。でも、あなたにならお願いできると思ったの……そのバングルをはめた、あなたになら」


ティナはハッとして右手を隠した。

スザンナには着替えはひとりでできると言い、手伝いは遠慮した。ショールが付いていたので、それを右手に撒いて、ここまでは誤魔化したつもりだった。


「食事が始まったらどうするつもり? 『騎士の間』に、ショールを着けては入れないわ」


アンナの言葉はもっともだ。どうすればいいのか、ティナも迷っていた。レイは外すなと言うけれど……。

そのとき、ティナの後方で中庭の芝生を踏み締める足音がした。


< 122 / 293 >

この作品をシェア

pagetop