アジアン・プリンス
(28)策略のエメラルド
「女同士で話しているのよ。邪魔はしないでくださる」

「申し訳ありません、レディ・アンナ。私は……皇太子殿下のご命令で、こちらのミス・メイソンを探しておりました」

「私を、ですか? レイ皇太子殿下が?」

「はい。お越しいただけますか?」


ニックは丁寧な口調でにこりともせずに言う。それは、慇懃無礼の見本のような態度だった。


「わかりました。すぐに参ります。……ねえアンナ、先ほどの件は」

「ええ、わかってるわ。でも、『人の幸福について』、色々考えてみてちょうだい」


ティナはそっとうなずく。アンナは信頼できる人だと直感した。彼女の口からバングルの件が漏れることはないだろう。

だが、晩餐会に右手を隠したままで出席できないのは確かだった。


「それから、レディ・アンナ。王宮の敷地内とはいえ、夜、おひとりで歩かれるのはいささか軽率なお振る舞いではないかと。仮にもレディの」

「うるさいわね! その、カビの生えた石頭はどうにかならないの? あなたって何世紀前の人間なのかしら? 私は離島に急患が出たら、夜中にひとりでボートを走らせるわ。それから、2年前にも言ったはずよ! いいえ、もう何回も言ってるわ。この次、『レディ・アンナ』と呼んだらあなたをぶつわよ! どうしても敬称を付けたいなら、『ドクター・フォスター』と呼んでちょうだい! いいわねっ」


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