アジアン・プリンス
サトウの命令が偽りなら、レイは激怒するかもしれない。
でも、その時はサトウに言われたのだと、説明すればいい。
だが、バングルがレイの手にあると言うことは、サトウの言葉に偽りはなかった、ということだ。
レイはまるで表情を見せず、静かにティナの右手を取った。
深い紺碧の瞳は、凍りつくようなアイスブルーに煌き、彼女の手首を一瞥する。そのまま無言で、“騎士の間”に入場したのだった。
晩餐会は終始険悪なムードで進んだ。
かろうじて盛り上げてくれたのは、アンナの母、プリンセス・ルシールくらいだ。彼女が気遣い、ティナをはじめ、アンナやソーヤの若い者に話しかけ、場を盛り上げようとしてくれる。
だが、主催者であるはずのレイは、淡々と食事を進めるだけであった。
そして食事が終わり、衝立の向こうに用意された舞踏会場へと全員が足を向けた。
フロアの壁際にテーブルが置かれ、ディジェスチフ……食後酒がふるまわれる。
ティナは用意された中から、1930年代のシャトー・ディケムを選んだ。フランス・ソーテルヌ地方で作られた最高級の貴腐ワインである。
そして、芳醇な甘味を持ったデザートワインとは対照的に、塩味のブルーチーズ「ロックフォール」が添えられていた。ほとんど臭みはない。
だが、ティナはアオカビのチーズは苦手なのでそれを遠慮し、ワインをひと口、喉に流し込んだ。
でも、その時はサトウに言われたのだと、説明すればいい。
だが、バングルがレイの手にあると言うことは、サトウの言葉に偽りはなかった、ということだ。
レイはまるで表情を見せず、静かにティナの右手を取った。
深い紺碧の瞳は、凍りつくようなアイスブルーに煌き、彼女の手首を一瞥する。そのまま無言で、“騎士の間”に入場したのだった。
晩餐会は終始険悪なムードで進んだ。
かろうじて盛り上げてくれたのは、アンナの母、プリンセス・ルシールくらいだ。彼女が気遣い、ティナをはじめ、アンナやソーヤの若い者に話しかけ、場を盛り上げようとしてくれる。
だが、主催者であるはずのレイは、淡々と食事を進めるだけであった。
そして食事が終わり、衝立の向こうに用意された舞踏会場へと全員が足を向けた。
フロアの壁際にテーブルが置かれ、ディジェスチフ……食後酒がふるまわれる。
ティナは用意された中から、1930年代のシャトー・ディケムを選んだ。フランス・ソーテルヌ地方で作られた最高級の貴腐ワインである。
そして、芳醇な甘味を持ったデザートワインとは対照的に、塩味のブルーチーズ「ロックフォール」が添えられていた。ほとんど臭みはない。
だが、ティナはアオカビのチーズは苦手なのでそれを遠慮し、ワインをひと口、喉に流し込んだ。