アジアン・プリンス
「クリスティーナ・メイソンです。えっと、殿下……」

「僕に敬称は不要だ。ソーヤでいいよ、クリスティーナ。君は、僕の姉になるんだろうか?」


レイに似ていると思ったが、ムードは従姉のアンナのほうによく似ていた。敬称を嫌うところも同じみたいだ。


「では私も、ティナと呼んでください。そのことは……私にもよくわからないんです」

「アンナに聞いたんだ。君がレイを変えてくれるかもしれないって」


ソーヤはなぜか可笑しそうに、軽い口調で話した。

だがティナには、ソーヤの言葉の意味が全くわからない。今夜のディナーを見たら、「君は何をして、レイの機嫌を損ねたの?」そう聞かれるとばかり思っていた。


「確かに……お優しい殿下のお心を、悪い方向に変えてしまったのかもしれませんね」


ティナは真面目に答えたつもりであった。

だが、ソーヤは紅茶色の髪を揺らしながら、楽しそうに笑ったのだ。


「何が可笑しいんですか?」

「いや、充分だよ。変えたことに違いない。プラスはマイナスでマイナスはプラスになる。ほら、ご覧。レイがこれまで1度も見せたことのない目で、僕を睨んでいる」


ソーヤに言われ視線を動かすと、そこにレイが立っていた。

先刻の凍てつく瞳が、今度は沸騰している。

滾るような眼差しで、ティナとソーヤを見ていたのだった。


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