アジアン・プリンス
(30)王家の瞳
ティナはそんなレイの目が怖くなり、思わず顔を背ける。


「ちょうどいい。せっかくだから、もう少し慌てさせてみよう」

「え……?」


ソーヤは楽しそうな声を上げると、ティナの手を取り、自身の右手を左胸に持っていく。

それは、レイがティナにした“誓いの証”であった。


アズウォルドにおいて、臣下が主君に向かってとる礼であり、裁判で正義の証言や、愛する女性に求婚したりする場合にも使われる。

神に、『この気持ちに偽りがあるときは、我が心臓を止めてくれても構わない』そんな意味だ。結婚式でも、それぞれが自分の胸に手を当て、誓いの言葉を口にする。

若者の間ではもう少し砕けていて、デートに誘う時や恋の告白をする時にも使われていた。
 

「ティナ、僕と踊ってもらえませんか?」


オーケストラはウインナワルツを演奏している。

真正面からアズルブルーの瞳で見つめられては、どぎまぎして肯いてしまいそうだ。

しかし、「い、いえ。私はダンスが」……苦手だから、と言おうとしたとき、ティナは手を掴まれ引っ張られた。


「ソーヤ、ティナは主賓だ。ダンスの相手はお前ではない」


これまでにない憮然とした声で割って入ったのは、プリンス・レイだった。


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