アジアン・プリンス
「……中央へ」

「私は結構です」

「そうはいかない。君が主賓で、君のための晩餐なのだ。私たちが踊らなければ……皆が気まずい思いをする」


ティナは渋々レイの手を取り、フロアのセンターへ歩き出した。


ワルツさえも苦手なのに、更に高度で格調高いウインナワルツだ。回転のスピードがワルツより速く、見た目は優雅だが1曲も踊れば息が切れる。

ティナは遙か昔に習った記憶を引っ張り出し、レイに必死でついて行くのだった。


1曲終わり、ティナはフロアから離れた。ピッチャーからグラスに水を注ぎ込み、一気に飲み干す。

曲はゆったりとした3拍子のワルツに変わっている。

彼女が大きく息を吐いた瞬間、隣に立つレイに気がついた。


「私にも1杯貰えるかな」

「1杯と言わず何杯でも、あなたの国の水ですから」


レイは呆れたように小さく首を振る。


「わからないな。怒ってるのは私で、君ではないはずだ」


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