アジアン・プリンス
中途半端にレイは居なくなってしまった。

レイに渡そうと、グラスに水を注いだものの……ティナは所在なげに、それをテーブルに戻す。


「なんだ、また奴か。――サトウはレイの教育係だったからね。いまだに父親気分らしい」


そのグラスを横からスッと取り、口に運びながらサトウの悪口を言ったのはソーヤだった。

その時、ティナはアサギ島で聞いた彼の話を思い出していた。ソーヤは、兄が全身全霊で自分を守ってくれたことを知らないのだ。もちろんティナも言うつもりはない。


「レイ……皇太子殿下は、ミスター・サトウのことをとても信頼しているのね。いつも一緒だわ」


パーティションの向こうに見え隠れするふたりの姿が、気にかかってどうしようもない。

そんなティナの様子に、ソーヤは屈託のない笑顔を見せた。


「ティナ、それじゃまるでサトウにヤキモチを妬いているみたいだ」


背の高さが同じせいかもしれない。

或いは、微妙にイントネーションの違うイギリス英語のせいか。

ソーヤの声が堪らなくレイに似ている。そして何より、アズルブルーの瞳で見つめられると、ティナはレイのキスを思い出し、眩暈を覚えた。


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