アジアン・プリンス
ティナは黙っていられず、レイに向かって一歩踏み出した。


「あなたはどうするの? 一緒じゃないの?」


その質問に、レイは困ったような顔で答えた。


「私は本島に戻らなければならない。今回の件を大きな問題にせず、収めるつもりでいる」


当然と言えば当然の答えだ。レイはティナを匿うために、補佐官や警護官の目を欺いてまで、ティナを王宮から連れ出してくれた。

レイの気遣いはわかる。

だがティナも、いきなりこんな場所に連れて来られたのだ。


「私は……ひとりでここにいるの?」

「朝には人が来る。それまでの辛抱だ」

「イヤよ! だったら私も本島に戻るわ」


無茶を言っているのはわかっていた。

ティナ自身、マスコミの怖さはよく承知している。彼らはハイエナだ。わずかでも肉が残っていれば、咥えついて放さないだろう。


「――ティナ」

「私の気持ちは伝えたはずよ。なのに……私にバングルを持っていて欲しくないと言うなら、そう言ってくれたら良かったのよ! あんな宝石と引き換えにしなくても、ちゃんと返したわ!」


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