アジアン・プリンス
もちろん、あのエメラルドの3点セットは丁重にお返しした。

恋に目覚めたティナには不要なものだ。何を犠牲にしてもレイが欲しい。レイの傍にいたい。ティナの胸の中はそれだけだった。

でも、叶えてはくれないと言うなら……。


「答えをちょうだい。私をどうするの? シン国王の王妃にする? それともしない?」

「君を兄の妃にはしない。そう言ったはずだ。今の君は相応しくない、と」


その言葉を聞き、ティナは床に置いたバッグを持ち上げた。

そして、つかつかと玄関まで歩き、外に出ようとする。


「ティナ! どう言えばわかるんだ? まったく、君はなんて気が短くてわからずやなんだ」

「どうせ“わからずや”よ! アメリカに帰るわ。そのほうがあなたも助かるでしょう?」

「ああそうだ。君のことは、私が全責任を持って安全に送り届ける。その約束だ。だから、今の状況ではまずいんだ」


ティナは、そんな言葉が聞きたいわけではなかった。


皇太子のレイに、婚約を破棄して自分を選んで欲しいなんて、言うつもりはない。

あのシン国王の妃だからこそ、ティナは選ばれた。自分が王妃に相応しい身分でないこともわかっている。事実がどうあれ、クリスティーナ・メイソンは疵物だ。レイもそう思っているはずだった。


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