アジアン・プリンス
しかし、それならキスなどして欲しくなかった。

好意を持つ相手から、何度もキスされたら……。ティナでなくとも勘違いするだろう。


「もういいわ。色々言われるのは慣れてるから。ミスター・サトウが言ってたわ。王妃のティアラが目当てなんだろう、って。レイ、あなたのね。マスコミにそう言えばいいわ。悪い女に誘惑された。でも、もう国に送り返した。あなたが言えないなら、私が言ってあげる。――裸になって誘惑しようとしたけれど、もう知ってるって言われたわ。ああ、ひょっとして皆さんもご存じかしら」


ティナの瞳から涙がこぼれ落ちる。

声も少し震えて……それでも彼女は、必死になって笑おうとした。


その瞬間、ティナはレイの胸に抱き締められた。

それは、最初の出会いを思い出す抱擁だった。顔を上げると、そこにはアズウォルドの海を映しこんだ瞳がティナを見下ろしている。


「レイ……私」

「黙るんだ」


もう1度愛を告げよう……最後にもう1度。

ティナがそんな思いで開いた唇は、レイの唇によって強制的に閉じさせられた。


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