アジアン・プリンス
――コンコン。

ドアをノックする音に、ティナは我に返った。必死で上掛けを手繰り寄せ、体を隠す。


「は、はい」

「失礼しますよ。あらあら、やっとお目覚めね」

「あ、あの……」
 

入ってきたのはレイではなく、年配の女性だった。

茶褐色の髪と瞳、髪には少し白いものも混じっている。背丈はティナと同じくらいだが、貫禄が倍ほどあった。


「さあ、シャワーを浴びて、朝食を召し上がってくださいな。でなきゃ、お昼になってしまいますよ」


その雰囲気にどことなく見覚えがある。だが、どうにも思い出せない。


「あの……すみません。こちらの方ですか?」

「え? ああ、私はプリンス・ジョーの乳母だったの。もう30年近くも前だけど」


そう言うとにこやかに微笑む。


「30年……あの、それって誰のことですか?」

「レイ皇太子殿下のことよ。王妃様が日本風の名前を嫌われてね、側近の者はジョセフ王子、プリンス・ジョーとお呼びしてたの」


ティナには初耳だった。


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