アジアン・プリンス
しかし、そのレイはどこに行ったのだろう?

ひょっとしたら本島に戻ったのかもしれない。そう思うと、ティナの心は一気に消沈する。


「プリンスは……もうこちらには?」

「え? ああ、プリンスなら入り江じゃないかしら。ここで泳がれるのが好きなのよ」


女性はアーレットと名乗った。

元々この島の出身だという。乳母を辞めた後は、夫の両親と自分の両親、娘夫婦たちと一緒に、島で暮しているそうだ。

この入り江のコテージは、レイの秘密の隠れ家だと教えてくれた。元々はレイの祖母、フサコ王太后の所有だったという。


入り江は、入り口の岩棚が左右から張り出していて回廊のようになっている。おまけに潮流が激しく、海上から入り込むには不可能な場所だ。しかも周囲は鬱蒼とした森に囲まれ……絶好の隠れ場所になっていた。

もちろん上空からヘリで狙われたらひと溜まりもない。だが、島で1番賑わう町の反対側だ。ヘリなど見掛けることもない。

ここは、レイが羽を伸ばせる唯一の場所と言っても良かった。


「まあ、隠れ家といっても、プリンスが女性を連れ込んだのは初めてのことよ」


フィアンセの存在には触れず、アーレットは心配しなくても良いと言ってくれたのである。

彼女の卵料理は、少し固めのスクランブルエッグであった。


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