アジアン・プリンス
「ミスター・サトウにも言ったけど、王妃のティアラを押し付けてきたのはあなたよ! 私はあなたのために引き受けてもいいと言っただけだわ!」

「それは兄王の妃のティアラだ」

「あなたの隣でティアラを付ける人は決まってるじゃない!」


ふたりの間に風が流れた。

肌を舐める風は少し不快で、アサギ島より湿度が高いようだ。

ティナがそんなことを考えながら横を向いた拍子に、長い髪が頬に張り付いた。指で絡め取り耳の後ろに掛けようとするが、中々上手くできない。何度か繰り返していると、レイが手を差し伸べた。彼は左手でティナの頬に触れ、器用に髪をすくい上げる。


「夕べは避妊具を用意していなかった。知ってるかい? この島には24時間営業のドラッグストアもないんだ。それに、男性経験のない君はピルも飲んでいないだろう。私にそんな危険は冒せない」


ストレートなレイの言葉に、ティナは真っ赤になって言い返した。


「それでも良かったわ。私はあなたに傷つけて欲しかった。何かあっても責任は私ひとりで取るわ。これでも一人前の大人の女よ」


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