アジアン・プリンス
レイはティナの隣、木陰の砂の上に腰を下ろした。ピッタリと体をつけて座るので、ティナが驚いたほどだ。


「ティナ、いい加減見縊らないでくれ。その時は、例え日本との関係を断ち切ってでも、私は君を妻に迎える。それで称号を捨てることになっても。我が子を庶子にするつもりはない」


恐ろしいほどレイはきっぱりと言い切った。

だが、そんなことは不可能だ。ティナにもわかることである。なぜなら、この国で彼が称号を譲れる相手はいないのだから。レイにはどこにも逃げ場はない。


「無理……だわ。言ったでしょう? 私はそんなこと望んではいないって」


隣に座るレイの顔を見ず、ティナはジッと入り江を見つめたまま言った。

そんなティナの様子に、レイは大きくため息を吐き、信じられない提案を始めたのである。


「OK、ティナ。ではこうしたらどうかな。このコテージをアジュール島の宮殿に建て替えよう。そして君はここで暮らすんだ。私は週に数回ここを訪れる。昨夜とは違い、私たちはお互いに満足行くまで愛し合おう。――だがおそらく、君が最も多く私の姿を見るのはTV画面やニュースペーパーだ。そして私の隣には黒髪の王妃がいて、王子や王女もいる。もちろん、君もいずれ私の息子を産むだろう。だがその子はプリンスと呼ばれることはなく、生涯、公の席で私の隣に立つことはない」

「もういいわ、レイ……」


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