アジアン・プリンス
(40)子供の父親
レイの顔から不快感が滲み出ている。

それはいつもの彼らしくなかった。責任の所在はともかく、これ以上レイを困らせるべきではない、ティナはそう考えた。


「わかったわ。セラドン宮殿に滞在します。だから、早く行って下さい」


ようやくレイの相好が緩む。


「――スザンナ! ミス・クリスティーナ・メイソンをセラドン宮殿に案内してくれ。彼女はそこに滞在する」

「殿下。ミス・メイソンでしたら、私が」


そこにニックが口を挟んだ。

だが、


「いや、いい。ニック、君には話がある。スザンナ、頼んだぞ。――誰か! 至急、医者を呼んで来い」


有無を言わせぬ厳しいレイの言葉に、女官のひとりが弾けるように走り出した。ニックもレイの叱責を覚悟したのか、その場に固まっている。


「ティナ、ありがとう――本当にすまない。今は、許してくれ」


レイはティナの頬に軽く触れた。そして部屋に……ミサキの元に戻ったのである。


< 187 / 293 >

この作品をシェア

pagetop