アジアン・プリンス
レイは寝転がったままティナの手を取り、手の平に指で文字を書いた。


――“零”


「これって漢字?」

「そうだ。ファーストネームには漢字も当てられている。レイとは“零”……ゼロのことだ。今は口にしない。だが」

「戻ったら、きっと、ね」


レイはうなずきながら、


「いいかい、ティナ? バングルを外すことも、日本まで追いかけてくることもダメだ。この次、突然君が予想外の場所に現れたら、お尻を叩くことにする」


「ええ、わかったわ。2階の窓からロープで降りたりしないから……早く戻ってきてね」


レイは片手をティナの頭に手を添え、素早く口づけた。


「このじゃじゃ馬め」


言葉とは裏腹に、アズル・ブルーの瞳は優しさに満ち溢れていた。


この時、ティナは本気で約束を守るつもりだったのだ。レイの王室存続を賭けた想いを知るまでは――。


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