アジアン・プリンス
(43)ティナの決断
「アメリカにお帰りになるというのは、本当ですか?」


ピチャン――プールサイドに座り、ティナは水に手を浸した。

地下水を少し温めているのだという。確かに、王宮の噴水から湧き出る水はかなり冷たかった。あれでは泳げない。海水は水温も丁度よくたくさんあるが、小高い丘の上まで汲み上げるのが大変なのだろう。

このプールでキスしたとき、ティナはレイに対する想いを自覚した。一生誰とも関わらない。そう心に決めて生きてきたのに。

それを、出会って数日の彼が、見事に覆してくれた。まるで喪服のような黒のドレスを、鮮やかなエメラルドグリーンのドレスに塗り替えるように。


「皇太子さまがお戻りになられるまで、待たれたほうが……」


先ほどからティナを引き止めているのは女官長のスザンナだった。


「いいえ。顔を見たら決心が揺らいでしまうから。私、プリンスにはいつまでも誇り高いプリンスでいて欲しいから」

「ミスター・サトウのおっしゃることは本当でしょうか? もし事実なら、確かに国民にとって残念なことではありますが」


レイが日本に発ったその日の夜、セラドン宮殿を皇太子補佐官のサトウが訪れた。

海外公務で、サトウがレイの傍にいないなどあり得ない事態だ。息子のニックは警護官として同行している。

この時、宮殿にはティナのほかにスザンナがいた。夜はひとりになるティナのために、彼女は宿直を買って出てくれたのである。

そして、思いもかけない話を聞くことになり……。


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