アジアン・プリンス
絨毯を擦るように頭を下げた、そんなサトウの姿が目に浮かぶ。


「でも……日本側は婚約破棄を了承されたのでしょう? 国王さまが再婚なさるかどうかはともかく、やはり、皇太子さまのお話をちゃんと聞かれたほうがよろしいですわ」


スザンナの言うとおりかもしれない。

レイはミサキとの婚約を解消した。しかも、日本側は驚くほどあっさり引いたようだ。およそ、裏でなんらかの取り引きがあったと見たほうがいい。

だがそれは、アメリカ人の花嫁を迎えてよい、ということにはならない。

ティナを妻にするためには、レイは王位を諦める必要があるはずだ。そして、アズル王室に譲位する王族はいない。


「だめ……それは絶対にだめ。レイはプリンスでなきゃ。誰よりも、この国を思ってる人なんだから」


声にした途端、涙が頬を伝った。

ティナはグッと息を飲み、右手首を握り締める。そこにあるはずのバングルは、昨夜、サトウに渡した。

これ以上は、もう――。

ティナはパスポートを確認すると、ボストンバックを手に立ち上がった。


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