アジアン・プリンス
「ねぇレイ。せめてアジュール島でふたりきりになって……それから、最初の夜を迎えたいわ」


ティナも、自分がただの人妻になった訳ではないと理解している。国王の妃ともなれば、公人の中の公人である。

だが、初めての夜くらいロマンティックに過ごしたい。

未経験のティナが憧れを抱いても、無理らしからぬことであった。


「ティナ、君は私にあと1週間の禁欲を強いるのか?」

「ここまで我慢したんだもの、あとたった1週間よ。こんな慌しく初夜だから……と済ませてしまうのは嫌だわ。朝はゆっくりベッドの中で寛ぎたいし……キャッ」


レイはティナを抱いたまま、スタスタとセラドン宮殿の自室に入り、新妻をベッドに下ろす。

クイーンサイズのそれは、宮殿の国賓用ベッドと遜色はなかった。


「1週間も、だ。私は君を妻にするまで必死で耐えた。あと1週間なんて10年待てと言われる気分だ。もう1分1秒だって待てない。クリスティーナ……観念するんだ」


淡いサーモンピンクのワンピースが揺れ、金色の髪がシーツの上に広がる。

そして、レイの唇が押し付けられた瞬間、ティナは防波堤が溶けていくのを感じていた。


そう、“崩れる”のではなく“溶ける”感覚。プリンスのレイからは想像もできない甘く熱い唇。そのすべてが、今は自分だけのもの。

もっと、もっと、とねだりそうになる心をティナは必死で引き止めた。


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