アジアン・プリンス
王宮の1番奥に国王夫妻の寝室がある。

一般にはその配置や構造は公表しておらず、極秘扱いだ。もちろん、安全の為であった。


そこはまるで海底の宮殿を思わせるのような淡いブルーで統一されていた。

床や壁、カーテンや調度品まで、微妙に色彩の変えた柔らかいブルー。寒い国では嫌がられるかも知れないが、ここアズウォルドでは、とても涼しげに感じる色遣いだった。 


レイは執務を終え私室に戻るとすぐにシャワーを浴びる。

丸1ヶ月宮殿を空けるため、ここ数日は溜りに溜まった書類の山を片付けていた。

ほぼ単純に国璽を押す作業ではあるが、すべてに目を通さねば気が済まない性格である。

そのため、この数日間、新妻ティナと顔を合わせるのは公式行事のみ。深夜2時3時に私室に戻り、シャワーのあとベッドに飛び込んで、6時、遅くとも7時には起床する日々だった。


だが、正直に言えば、この忙しさにレイは救われていた。そうでなければ、悶々とひとり寝の夜を過ごしていたであろう。

ひょっとすれば、隣の部屋で眠るティナのベッドに、夜這いに行ったかも知れない。


(こんな馬鹿げた夜も今夜で終わりだ。明日からの5日間、誰にも邪魔はさせない)


疲れてはいても、レイも男だ。明日の夜に期待を馳せ、髪を拭いたタオルとバスローブをラタンの籠に放り込み、ベッドに滑り込んだ――そのとき。


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