アジアン・プリンス
「あとたったひと晩だ。今ここで抱き合ったら、君は心ではなく、身体で私の愛を得たと思うかもしれない。いい子にしてこれ以上私を誘惑しないでくれ。愛してるよ、ティナ」



レイは『ひと晩なら平気だ』と笑って同じベッドで眠ってくれた。

彼の言うことは正しい。

あのエリザベス王女のことで気掛かりがあるから、と妥協してしまうのは間違っている。

アンナはレイも普通の男だ、と言ったけれど……。ティナにとってレイは特別な男性なのだ。

焦って作業のように初夜を済ませてしまえば、素晴らしいはずの愛の営みを棒に振ることになる。




「大丈夫よ……そう、大丈夫」


レイは出発前に緊急の用件が入り、この船には乗れなかった。だが、用事を済ませてヘリで飛んで行くと約束してくれたのだ。


アズル・ブルーの水面を撫でる風はどこか生暖かく……。

不吉な胸騒ぎを覚えるティナだった。 


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