アジアン・プリンス
基本的にふたりきりなどと言うのは、認められるはずのない身分である。

だが、レイはティナのために無理を通してくれたのだ。


警護官は森を挟んだ村の宿泊施設に泊まり、コテージに向かう道路を中心に警備することになった。

森を抜ける一本道であったことが容認された大きな理由かもしれない。

補佐官や侍女も村に泊まる。彼らは、呼ばれなければコテージは訪れないようにレイが命令したのだった。海側の警備も、決して入り江には入らないという。


滞在中は完全にふたりきりだ。

その代わり、ティナ自身が食事の用意をし、レイの身の回りの世話もしなくてはならない。だが、それもティナには楽しみのひとつだった。


コテージは先日訪れたときに比べ、随分綺麗に掃除されていた。傷んだ箇所もキチンと補修してある。

窓から見えるコテージ横の桟橋には、小型のクルーザーが係留されていた。

おそらくふたりで遊ぶためにレイが準備したものだろう。


レイもこの日を楽しみにしていてくれたのだ、とティナの心は浮き立つ。


ティナが奥のベッドルームに足を踏み入れたとき、ベッドの上に何かあるのに気づいた。小さな箱で赤いリボンが掛かっている。

そして、リボンにはメッセージカードが挟んであり、ティナがカードを開くと――


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