アジアン・プリンス
「懐かしいわ。中の様子は昔と全然変わらないのね」


エリザベスはゆっくりと室内を歩きながら、そんな感想を漏らした。


「そんなに何度もこちらに来られたんですか?」


質問しながらティナがコーヒーを出した。『王妃様に淹れていただくなんて』と言いつつ、自分では動く気配はない。

他には誰もいないのだから、ティナがやるしかなかった。


「ええ、そうですわね。レイはここが好きだったから」

「アーレットから、レイがここに女性をお連れしたことはない、と聞いてますけど……」

「あら……。それはフサコ様から相続されたあとでしょう? 彼女が亡くなられたのが、レイが20歳のときだったかしら。わたくしがレイとふたりで初めてここに来たのは、彼が15歳のときよ」


ティナはカチンときたが、言い返すことは我慢した。

本当は追い返そうとしたのだ。でも、レイに王位継承権について重要な話がある、と言われ……。

仮にも王女の地位にある女性に失礼な真似もできない。ティナのほうが身分は高くとも新参者だ。


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