アジアン・プリンス

(7)素晴らしい経験

ティナはそのとき、レイの重みを全身で感じていた。

苦痛はほんの一瞬。声を上げる間もなく消え去った。ティナの中に残ったのは、愛し愛される喜びと、蕩けそうなほどの快感。寄せては返す波のように、体内でうねり、彼女を高みへと押し上げる。

ティナはもう、されるがままになっていた。

レイに抱きつき、彼の動きに合わせて……そう、初めてダンスをしたあのときのように。


ふいに、何もかもが弾け飛ぶような感覚にティナは囚われた。それは甘くもあり、苦しくもある、不思議な感じがして……ティナはレイに抱きつく。

溺れそうになったアズウォルドの海を思い出し、必死でレイに助けを求めた。


「ティナ……クリスティーナ」


その瞬間、レイは上ずった声でティナの名を呼び、激しいキスで応える。

ふたりの身体は溶け合い、境界線すらわからなくなるほど……ふたりはひとつになった。

彼の首筋から汗が噴き出し、背中に回したティナの腕も熱く火照る。レイは全力疾走したような荒い息で、キスを繰り返した。



やがて窓は閉められ、外は暗くなり……寝室に灯りが点ったのは、だいぶあとのこと……。


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