アジアン・プリンス
これ以上、レイの吐息を感じていては、憧れが恋に変わってしまう……。

そう思ったティナは慌てて体をドアにピッタリとつけ、違う質問をした。


「けい……警官が多いんですね。あの制服……民間の警備員、とかじゃないですよね?」


統一された水色の制服をストリートごとに見かける。でも、腰に拳銃が下がっていない。ニューヨークでは考えられないことだ。

ティナに避けられたことを感じたのか、レイは少しよそよそしい表情で微笑んだあと、質問に答えた。


「そうだ。国民ひとり当たりの警官数は世界一だよ。そして、見かけは大都市だが犯罪率は農村並に低い。最近は個人所有車両の増加で事故は増えているが――昨年、殺人罪で有罪判決を受けた国民の数はゼロを記録した」

「す、すごいですね」

「犯罪は未然に防ぐことに力を注いでいる。だが、一旦罪を犯したものには容赦ない。例えば……」


レイの視線が1度ティナから外れた。

どうかしましたか? と、問いかけようとした彼女より早く、レイは再び口を開いた。


「我が国では、女性を監禁、暴行した場合――死刑だ」


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