アジアン・プリンス
(11)ティナの過去
死刑がある、というのにも驚いた。だが、それ以上に……レイが何を言わんとしているのかがよくわかった。

ティナはうろたえた姿を見せたくなくて、毅然とした顔つきで答えた。


「量刑が重いんですね。でも、死刑は……」

「性犯罪者にはとくに重い刑罰を科している。――君も調べたなら、こんな記述があっただろう、アズウォルドは“売春王国”だ、と」



平地が少なく、サバナ気候のこの国は農作には適していない。当然のことながら、古来から漁業で生計を維持してきた。

しかし、珊瑚礁に囲まれた大陸棚から外海に泳ぎ出ると、そこはサメの周回コースだった。かなりの犠牲を出しながら、それでも彼らは海で生きる糧を得てきたのだ。

ところが、太平洋を舞台に戦争が始まった。

敵国からの保護を名目に、豊かな漁業権は大国によって取り上げられてしまう。そして、命がけで得たわずかな魚介類すら、彼らが口にすることはできなくなってしまったのだ。

その結果、この国では最も古いと言われる職業に従事するものが増えていく。戦争で父や夫を失った者は、そのほとんどが慰安婦に身を落とした。

貧しさのあまり親が娘を売るのが当たり前のようになり、半ば公然と売春がまかり通る国になってしまい……。


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