アジアン・プリンス
誘拐監禁事件がなくなったことにより、犯人は別件で逮捕された。

その結果、実刑を免れ、すぐに釈放されてしまうことに。そして、押収を逃れた写真データから、ティナのヌード写真がインターネットを通じて世界中にばら撒かれてしまった。


『クリスティーナは誘拐犯にレイプされ、ヌードまで撮られた』


そんな噂がティナの周囲に蔓延した。

だが、これに反論したくてもできない。なぜなら、そんな事件はなかったのだから……。

そもそも、誘拐されてなどいないのにレイプされるわけがない。当然、ヌード写真を撮られるはずがなく――その結果、あの写真に写っているのはティナではない、と言うことしかできない。

ネットの掲載をやめさせることもできず。ティナの目の前で男子学生が写真をちらつかせても、ヒステリックな反応すらできないのだ。

聞くに堪えない卑猥な冗談に、ティナは黙って耐えるしかなかった。


『写真の女をレイプした。だが被害者はいない。写真はあるが、これは多分俺の妄想だろう』


犯人は調子に乗ってネットに書き込み、3流紙はそれを記事にする。

メイソン・エンタープライズと敵対する会社の策略とも言われたが、今となってはなんの証拠もない。


メイソンに悪気があったわけではない。娘のために良かれと思ったことだ。

だが、ティナは救出された後から、マスコミや周囲の心ない発言により、身体は穢されたことになり――心も蝕まれていった。


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