アジアン・プリンス
(12)国賓扱い
「本当はわかっているはずだ。しかし、君の想像とは違うよ」


反論しようとしたティナの口元に、レイは人差し指を押し当てた。


「私の祖父である先々代のコウ国王は、国民全体のモラルハザードを食い止めようとした。国教をカトリックに定めて、王族が率先して洗礼を受けたんだ。だから私たちは皆、敬虔なキリスト教徒なんだよ。売買春の禁止法を制定し、違法者は厳しく罰した。一時期、“買春ツアー”などと言って訪れる観光客もいたが、彼らの中から逮捕者が出たことで、次第になくなって行ったんだ」


レイは目を細め、車窓から見える街並みを愛しそうに眺める。


「売春は貧しさゆえの行為だった。だから、貧困層を優先して公務員に採用した。我が国では、国民の半数はなんらかの公務員の肩書きを持っている。ようやく、その世代が親となり、子供に……性は売り買いするものではなく、合意にのみ行われること、そして、結婚後に行うのが最も望ましい、と伝え始めているんだ」


その言葉に、ティナは顔を顰めた。


「――ずるいわ。だから、私がこの国の王妃に相応しい、と?」

「いや……願わくは君の口から、将来愛する男性と結婚したい、そう言って欲しいと思っている」

「レイ?」


レイ皇太子は喉の奥から押し出すように言うと、窓の外を見たまま黙り込む。

――ティナはその言葉の意味が長くわからなかった。

だがこの時、このままレイの傍にいたい、彼の役に立てるなら、どんなことでもしたい。ティナは、そう思い始めてしまう。

そしてそれは、レイの理性とは真逆の思いだった。


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