アジアン・プリンス
ホテルに案内されるとばかり思っていた。だが、ティナが通されたのは、なんと王宮。


ビジネスタウンを通り抜け、レイとティナを乗せた車は郊外に出る。30分後、正面に見えたのが白亜の宮殿だった。

以前は、もっとこじんまりした建物だったらしい。だが、テロによって破壊されたあと、レイの指示でバッキンガム宮殿並に建て替えられた。確かに国力の高さは示せるだろう。


ティナはその王宮内の、最上級の部屋に案内される。

メイソン家はアメリカ有数の大富豪だ。普段表に出ることのないティナでも、およそ、セレブとしての扱いには慣れている。

だが……さすがに国賓待遇でもてなされたことはなかった。

しかも、もてなしてくれた相手は、身分から何から桁違い。ブルネイ国王と総資産の首位を争うアズウォルド王国の実質的な権力者となれば……。


まず、部屋に一歩足を踏み入れ、最初に目を奪われたのが、中央にある噴水だった。

室内である。決して中庭とかではない。なぜ? と恐る恐る近づくティナに、女官長で王宮の国賓接待役を勤めるスザンナ・アライが荷物を下ろしながら教えてくれた。


「ポンプで汲み上げた地下水でございます。お飲みになれますよ」


ティナの母より若いだろう。日系というより、東南アジアを思わせる肌の色と顔立ちであった。

彼女はティナを見てニッコリと微笑む。


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