アジアン・プリンス
「カケス・ジェイ島からやって来たばかりのガキです。まったく、馬鹿をやるにも程がある!」


2号油田の責任者、ジョージ・カンザキは苦々しげに怒りをぶつけた。

そこは、本島から2百キロ北にある2番目に設営された油田基地だ。本島より少し涼しいが海面はやはり吸い込まれるように美しい。

その基地に配属されたばかりの18歳の見習い作業員が、ボートでの移動中にセイレーンの誘惑に駆られ、海に飛び込んだ。

若者同士のくだらない賭けもあったらしい。しかし、その若者を引きずり込もうとしたのは人魚ではなく、海の殺戮者サメだった。


「では、命に別状ないんだな。足は切断したのか?」

「どうにか、くっついてるようです。詳しい事は医者が報告すると思いますが」

「わかった。ご苦労だった。近くにいた者はショックも大きいだろう。彼らが充分なカウンセリングを受けられるよう、手配してやってくれ。足りない人員は早急に補充する。よろしく頼む」


レイ皇太子がそう言ってスッと手を上げると、作業員全員が最敬礼した。

責任者のミスター・カンザキは、


「お疲れのところ、わざわざありがとうございました。殿下の顔を見たら、みんな落ち着きますよ」


そう言って、日に焼けた笑顔を見せるのだった。


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