アジアン・プリンス
(14)異母兄弟
本島に戻るヘリの中で、レイは同行の開発大臣を通じ、政府スポークスマンや観光大臣に、様々な指示を与えた。


「発表は素早く、正確に。事件が起こったのは外海でビーチは安全だが、世論は納得しないだろう。ビーチを囲む防護柵の管理と点検を行い安全宣言を出すんだ。人々がアズウォルドの名前を聞いて『ジョーズ』を思い出す前に。迅速に行え」

「殿下、よろしいですか?」


それまで後方に控えていた補佐官のサトウが、そっとレイの近くに進み出た。

レイの公的な携帯に受けた連絡を伝えるためであったが……表情は芳しくない。あまり、喜ばしい内容でないことは一目瞭然だ。だが聞かない訳にもいかない。


「どうした? 王宮からか? それとも」

「アサギ島の宮殿からでございます」


そこは兄、シン国王が静養と称して滞在中の宮殿であった。


「陛下がいかがされた?」


レイは感情を殺してサトウに問い掛ける。

兄の身に何かあったのでは、と思うと気が気でない。


「いえ、国王陛下はお変わりなくご静養中とのこと。ただ、日本に里帰りされておられましたミセス・チカコ・サイオンジが、入国ゲートを通らずに、お戻りになられた、とのこと」


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