アジアン・プリンス
(またか……)


ホッとすると同時に行き場のない怒りもこみ上げてくる。

陛下の生母であるミセス・サイオンジには、何度申し上げても無申請で日本との間を行き来する。

海上エアポートから直接、アサギ島の宮殿に戻ってしまうのだ。彼女の夫であった前国王が許可したと言って譲らない。確かに、許可はしたのだろうが……。

しかし、まだしばらく戻らないと言っていたはずが、面倒なことになった。

アメリカの一部マスコミが、プリンセス探し、などと報じたのが耳に入ったのだろう。女優やモデルなど、目立つ女性を連れまわし、スキャンダラスな報道で打ち消したつもりだったが。

レイはできる限り冷静を装い、サトウに質問した。


「ソーヤは? 彼も母親と一緒か?」

「いえ、ソーヤ・サイオンジ中将は海軍演習中でございます。ミセス・サイオンジは連絡を取ろうとされたようですが」

「そのたびに軍事演習では彼も大変だな。では、彼女はひとりか?」

「いえ。それが……今回の帰国にあたり、20代後半と見られる日本人女性を同行されておいでです。現在、身元確認中ですが、多分、先日の報告書にありました女性ではないかと」


(――やはり本気だったのだ)


レイは側近にも大臣たちにも気付かれぬように、そっとため息をついた。


< 58 / 293 >

この作品をシェア

pagetop