アジアン・プリンス
12年前、日本政府とある約束を取り交わした。

技術開発の指導と援助を条件に、レイ皇太子妃に日本人女性を迎えることである。

それに選ばれたのが当時9歳だった、ミス・ミサキ・トオノだ。彼女は現在21歳になっている。本当なら高校を卒業してすぐ、花嫁に迎えるはずだった。

だが3年前、「せめて20歳までは親元にいたい」ミサキはそう言い始めた。レイは、彼女の希望を受け入れ、結婚を2年延ばしたのである。

ところがその2年後、ミサキはさらに「大学で学びたいことができた。卒業まで待って欲しい」などと言い出して……。

その要求に、アズウォルド国議会から抗議の声が上がった。

自由恋愛が建前とはいえ、国家間で決定された婚姻を引き伸ばすことは契約違反にあたる。婚約破棄の理由に相当する、と。

しかし、レイはその議会が進言した『婚約破棄案』を退け、2年後の結婚を約束し、現在もミサキの好きにさせている。

日本のマスコミはふたりの関係を、光源氏と若紫のようだ、と書き連ねた。

だがそれは、レイが手を回してのことではあったのだが――。


「かえすがえすも3年前、いや昨年でも、殿下がご結婚なさっておられましたら……」

「仕方あるまい。急き立てては、弱みを見せることになる。譲位を急いでいる、と、各国に思わせるわけにはいかない」


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