佳き日に
「お前、どこの組の奴だ?」
さっきよりは幾分か声音が和らいだ。
菘は少し目線を下げ首を横に振る。
数秒の沈黙の後、男に強い力で手を引かれた。
そのまま、引っ張られる形で狭い路地を抜ける。
人気のない角をいくつか曲がった先で、突然抱きしめられた。
男の荒い息づかい。
気持ち悪い。
ひんやりとしたものが菘の心に落ちる。
男って、本当に馬鹿だなぁ。
冷静に、そう思い菘は相手の首めがけてナイフを振り下ろす。
『ハニートラップ』
その手口を知ってこそいたが、本気でやろうと思ったのは14歳か15歳の頃だ。
性的誘惑でターゲットを誘い込み、殺す。
それまでは普通の暗殺者としてやっていたが、限界だったのだ。
銃撃戦のように技術勝負ならば勝てるのだが、力勝負に持ち込まれたら菘に勝ち目は少ない。
男と女の力の差は歴然だ。