佳き日に
今まで出会った人とは全く違う彼女の行動に、琴は少なからず戸惑った。
彼女が何を思ってその言葉を呟いたのか皆目見当がつかない。
考えることは嫌いだ。
めんどくさい。
そう思ったら琴のスイッチはすぐに切り替わり、とりあえずさっさと仕事を終わらせよう、とナイフを握りしめた。
生々しい音と共に手のひらにリアルに伝わる感覚。
人を、肉を、潰す感覚。
ナイフは切るっていうより潰すって感じだと琴は思った。
彼女を殺したのは何年前のことだったのだろう。
おそらく二年程前だ。
何故今更こんなことを思い出したのだろう。
琴はソファーに座って考えていた。
台所では閏が食べ終わったカレーの皿を洗っている音がする。
雪は琴の隣でいつものように本を読んでいる。
そこで琴は琥珀の姿が見えないことに気がついた。
「雪。あの女はどこだし。」
「もう寝たぞ。」
「早すぎだし。」
「今日は色々あって疲れたんだろ。」
本から目を離さず雪は言葉を続ける。
「それに明日からトレーニングがあるしな。」
あぁ、そんなのもあったような、うすぼんやりと琴は思う。