佳き日に




今まで出会った人とは全く違う彼女の行動に、琴は少なからず戸惑った。

彼女が何を思ってその言葉を呟いたのか皆目見当がつかない。
考えることは嫌いだ。
めんどくさい。

そう思ったら琴のスイッチはすぐに切り替わり、とりあえずさっさと仕事を終わらせよう、とナイフを握りしめた。

生々しい音と共に手のひらにリアルに伝わる感覚。
人を、肉を、潰す感覚。

ナイフは切るっていうより潰すって感じだと琴は思った。



彼女を殺したのは何年前のことだったのだろう。

おそらく二年程前だ。
何故今更こんなことを思い出したのだろう。

琴はソファーに座って考えていた。

台所では閏が食べ終わったカレーの皿を洗っている音がする。
雪は琴の隣でいつものように本を読んでいる。

そこで琴は琥珀の姿が見えないことに気がついた。


「雪。あの女はどこだし。」

「もう寝たぞ。」

「早すぎだし。」

「今日は色々あって疲れたんだろ。」


本から目を離さず雪は言葉を続ける。

「それに明日からトレーニングがあるしな。」

あぁ、そんなのもあったような、うすぼんやりと琴は思う。


< 143 / 627 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop