佳き日に

8.7光年先にいるあなたに愛を込めて


[7]


琥珀と雪、閏が鉛丹と桔梗に交渉を持ちかける危険な状況の最中に、琴は一人日記を読んでいた。

もちろん、今四人で住んでいる家でだ。

一人は家にいなければ危ないという閏の意見により、琴は一人ここに残されることになったのだ。

「めんどくせぇ・・・。」

そう呟いて琴は黒い皮の表紙をペラリと捲った。

かなり年期のはいったそれは、雪に渡されたものだった。
古い紙の匂いが、琴の鼻孔をくすぐる。

これは、雪の父親、雨の形見らしい。


「形見とか、そんな大事なもん俺に渡すなし。俺よく物失くすし。」

そう言って琴は雪に日記を押し返した。
しかし雪はそれを受け取らなかった。


「別に、そんなに大事じゃない。一歳のときに死んだ父親なんて覚えてないしな。」

そうだとしても、と琴が反論しようとするのを雪はゆるく遮った。

「琴に読んでほしいんだ。」

「はぁ?なんでだし。」

「雨は、多分赤い女と交流があった。」

は、え、と琴はそんな惚けた声を出した。

どういうことだ、だって、メモリーズ最強の雨とメモリーズ最大の敵、赤い女が?
琴の頭の混乱を察してか、雪は雨の日記だというそれを持ち上げた。

「読めば分かる。」

鉛丹と桔梗の一件が片付いたら閏にも読ませるつもりだと雪は言った。


なんで、雨と赤い女が。
てか、雨は赤い女に殺されたじゃねぇか。

琴には分からないことだらけだった。


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