佳き日に




日記は、ずっしりと重かった。

十年以上も雨は書き続けたらしい。

雪が読んで欲しいページに付箋を貼っておいたと言っていた。
琴はとりあえずそこから読み始める。


『六月一日。
依頼。長期になりそうだ。
京都の暑さを覚悟して色々準備していたのに、無駄になった。
東北へ行く。福島。
名物はなんだろう。』


『六月三日。
外国のマフィアを消した。
これで依頼一つ。
残るはあと六つ。
めんどくさい。』


え?
琴はそこまで読んで目を丸くした。

依頼を七つも一気に引き受けるなんて、出来る訳ねーだろ、と思わず口に出す。
一つ片付けるのにも情報収集から実行までかなりの手間暇がかかるのに、七つなんて、正気の沙汰じゃない。
ありえない。


しかし、読んだ感じでは雨は不可能だなんて微塵も思っていないようだ。
無理だと思われても、あっさりとやってのけてしまうのだろう。
そこに、雨が最強と言われた所以があるのかもしれない。


『六月五日。
雨が降っていた。
視界が悪く、情報収集がはかどらない。
雨宿りで立ち寄った古本屋にいた、女の子と仲よくなる。』


は、と琴の眉間にしわがよる。

普通、メモリーズは一般人と関わりをもったりしない。
何かの拍子に、警察に情報がいってしまうことがあるからだ。
わざわざ自分を危険に晒すような真似はする必要はないだろう。


まぁ、雨は強かったから警察に居場所が知られても大丈夫だったのだろうが。


よく見れば、下の方に続きというか、書き残してある言葉があった。

『女の子は中学生で、名前はあかね、らしい。
漢字は聞かなかったが、多分茜だろう。』

紺色のインクで書かれた文字を琴はなぞる。





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