佳き日に
[1]
幸いなことに、あの日の私のドレス姿は誰にも見られていないようだった。
学校でもドレスを着た女が駅前を彷徨いていたなんて噂は流れていない。
本当によかった。
琥珀はほっとするのもつかの間、期末考査の勉強に追われていた。
ありえない量のテスト範囲に頭を抱え、気晴らしに友達と甘いものを食べに行く。
勉強期間の甘いものって素晴らしい。
そんなことを常々思っていた。
電話がかかってきたのはそんな当たり障りのない毎日を送っていた時だった。
友達とパン屋でパンを選んでいる時に、鞄の中かシロフォンの音がした。
着信に設定しておいたのだ。
「電話、琥珀のじゃない?」
友達に言われて慌てて琥珀は鞄を探る。
表示を見てみると、知らない番号が映し出されていた。
誰だろう?
琥珀は不思議に思いながらも通話ボタンを押した。
携帯越しに聞こえてきたのは、もう二度と聞くことはないと思っていた人の声だった。
「雪だ。」
「・・・・あ、お久しぶりです。」
一気にあの時の恐怖が琥珀の頭に蘇った。
自分では平静を装ったつもりだったが、声に動揺が出ていたかもしれない。
「何の、用ですか?」
声が少し震えた。
琥珀は気持ちを落ち着かせようと友達を見た。
フランスパンかクリームボックスの二択で迷っているようだ。
ちなみにどちらも琥珀の好物である。
「一応、忠告しておこうと思ってな。兄弟には気をつけろ。」
「は、はぁ・・・。」
「じゃあな。」
あっけなくそこで電話が切れた。
一気に疲労が琥珀を襲う。
一体雪は、何を言いたかったのだろう。
兄弟に気をつけろと言われても、この世界に兄弟は何組いると思ってるんだ。
分からないことだらけだ。
大体あの人にはもう関わりたくない。
琥珀は静かにため息をつく。
私は、普通の生活がしたい。
ドレスで街中を歩くなんてもうまっぴらだ。
だが、そんな琥珀の願いも叶わず、次の日琥珀は兄弟と出会うことになる。