佳き日に


[3]


椿の商売は電話でのやりとりが主だ。

直接店に出向く客は少ない。
菘の知っている限りでも、雪と閏と琴、年に一回くらい鉛丹と桔梗の兄弟が来るだけだ。

店に足を運ぶ客が少ないのをいいことに、菘はいつも椿の店に入り浸っていた。
椿の店では仕事を取りやすいうえに、いつもお菓子が用意されているのだ。
よくは知らないがいつも椿が用意してくれている。

今も菘は当たり前のように飴を舐めている。

机の上にあったピンク色の箱から勝手に取ったのだ。
ソーダ味が、口の上の方を刺激する。

しゅわしゅわっていうか、ざらざらしてんじゃん、これ。

菘が舐めている飴にそんな感想を持った時、ちょうど椿も電話が終わったようだ。


「椿、この飴ざらざらしてるよ。」

「そんなものだよ、飴なんて。」

菘の言葉を一蹴して椿はまたどこかに電話を掛けようとする。

椿はいつも忙しそうだな、と菘は思う。
いや、忙しそうじゃなくて、仕事に困ってないっていうか。
テキパキしてる。
椿の携帯は30分おきごとにはどこからか電話がかかってくる。
それでも毎回ちゃんと対応できるし仕事を間違えたことはない。
正確だ。
その分、他の情報屋と比べて値段はかなり高い。

菘がソーダの飴を舐め終える頃には、椿の2件目の電話は終わっていた。

「赤い女がでたって本当?」

椿が携帯を置くや否や、菘は尋ねた。

ずっと聞きたくてうずうずしていたのだ。
始めは聞き間違いかと思ったが、椿は電話での会話で何度も“赤い女“という言葉を出していた。
21年前にたくさんのメモリーズを殺した赤い女。
その頃にはまだ生まれていなかった菘は、噂しか聞いていないが、都市伝説のようなものだと思っていた。

だって、人間がメモリーズに勝てる訳ない。
しかも、女が。
菘も女で、物騒な仕事をしているので、男女の力の差は身をもって知っているつもりだ。



< 32 / 627 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop