佳き日に
[5]
ピカピカと点滅する自動販売機のボタンをじっと見つめる。
紅茶、ほうじ茶、コーヒー。
人を落ち着かせるにはどれが効果的だろうか、と閏は考える。
だが結局一つに決められずに、三つのボタンを一気に押す。
ガシャン、と音がして出てきたのはほうじ茶だった。
まだ九月だというのに温かい。
少し気が早いのではないか、と閏は思いながら歩き出す。
手に持ったほうじ茶が熱く、左右に持ち替えながら。
道の雰囲気がどんよりとしてきたところで見慣れた後姿が見えた。
肩にかかるくらいの黒髪に、少しシワになっているワイシャツ、灰色のカーディガン。
なんだかいつもより小さく見えるその背中に閏は声をかける。
「琥珀さん。」
閏の声に反応して琥珀がゆっくりと振り向く。
その目は焦点が合っていないようで、どこか虚ろだった。
「ほうじ茶でよかったですか?」
「あー、うん。ありがと。」
ヘラッと力なく笑い、琥珀は手を伸ばす。
「あったかいやつ、もう出てるんだ。」
カチッと音を出しながら蓋を開ける。
だが琥珀は一度口をつけただけで、その目はぼんやりと前を見ている。