佳き日に
湯呑を持ったまま何かを考えるように菘は机を見つめていた。
数秒の沈黙の後、桜色の唇が動いた。
「椿は、赤い女を殺そうとしていた。」
何と返せばいいのか全く頭に思い浮かばないくらい、予想していなかった事実。
口を何度か動かしてみても、そこから言葉は出てこなく、ただ空気が出入りするだけで。
「はぁ?なんで椿が赤い女を殺す必要があるんだよ。」
「私だって知らないよ。」
鉛丹の言葉に間髪いれずに答えた菘。
だがすぐ俯き、一拍おいてから絞り出すような声で話し始めた。
「椿の親、赤い女に殺されたんだって。」
なんとも言えない空気が三人の間を流れる。
「それは、初耳ですね。」
桔梗はなんとかそれだけ言っておいた。
この様子では菘と最近知ったのだろう。
桔梗や鉛丹はまだしも、何年間も一緒にいた菘も知らないということは、椿は故意に隠していたのだろうか。
どのみち、菘のターゲットである赤い女を椿が殺そうとした、その事実だけは確かだ。
それはつまり裏切り、とまではいかなくても、椿は菘をあまり信用していなかったのではないか。
そこまで考えたとき、目の前で俯く菘がやけに小さく見え、桔梗は思考を止めた。
「まぁとりあえず、情報収集に専念しようぜ。」
鉛丹の言葉により、ようやく三人の間を流れる重い空気は断ち切られた。